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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)740号 判決

一 請求の原因1、4の事実は、当事者間に争いがない。

二 同2の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第二号証によれば、本件発明の構成要件は、被告の主張2(一)のとおりであることが認められる。

三 前掲甲第二号証によれば、従来の音叉形水晶振動子は、電極の引出点を四端子で引き出す必要があつたため、リード線構造が複雑となり、また、一般にリード線によつて水晶片を保持しているので、耐震、耐衝撃性に劣るという問題があり、更に、このようなものでは、各電極に所定の位相差の信号を与えて励振するために特定の電子回路によつて発信回路を構成する必要から、特にC―MOS集積回路と組み合わせることが困難であつたところ、本件発明は、前二認定の構成を採ることにより、(1)水晶板をU字状に形成して対峙した一対の脚部及びこの一端を連結する基部を設けるようにしたので、任意の寸法の振動子で所望の共振周波数を得ることができ、従来のXYタイプあるいはNTタイプの振動子に比べ著しく形状を小型化することができ、(2)一対の脚部を互いに同調して振動するような電極配置とし、これを電気的に接続する接続部の配置も独特な構造としたので、各電極を二組に共通接続して外部へ導出することができ、電極の引出し構造が著しく簡単になり、(3)電極を二端子で外部に導出することにより、C―MOS集積回路と組み合わせた発信回路には最適であり、(4)二組に共通接続した電極を音叉の振動の節である表裏板面の基部の中央部から外部へ導出しているので、例えば、リード線の共振による特性の劣化等の影響を確実に除去することができ、しかも、対称的な配置構造によつて理想的な振動姿態を得られ、(5)この基部中央部を強固に保持しても、振動特性を劣化するおそれもないので、例えば、リード線を保持線に兼用することもでき、基部の中央部で振動子を保持することと相まつて十分な耐震、耐衝撃性が得られるとの作用効果を奏するものであることが認められる。

四 本件発明の構成要件Cは、前二認定のとおり、「各共通接続にした二組の電極を基部中央部の裏表板面から外部に導出して屈曲振動を励振するようにした」との構成であるところ、別紙目録の記載によれば、被告製品は、各共通接続した二組の励振用電極を基部10の裏表板面の底部であつて基部10の幅方向の中央において突出部5、6を介して外部リード線3、4に接続し、外部に導出して屈曲振動を励振するようにしている構造であることが認められるので、次に、被告製品の基部10の裏表板面の底部であつて基部10の幅方向の中央に当たる部分が、本件発明の構成要件Cの基部中央部に含まれるか否かについて判断する。

(一) 前掲甲第二号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、基部中央部又は振動の節について、(1)「各共通接続にした2組の電極………をそれぞれ基部21cの中央部から接続電極21c1、21c2にたとえばリード線23、24を接続して外部へ導出する。水晶振動子のほぼ中央から端子を引出せばその振動の節に近い部分に端子を設けることができ、この端子の存在が水晶振動子の振動に殆んど影響を与えないようにできる。また、このようにすれば水晶振動子の中央部を保持する場合、水晶振動子の端部に端子を設けるものに比して構造も合理的で製造も容易になる。」(本件公報二頁四欄三行ないし一四行)(2)「共振時に振動の節になる基部21cの特に巾方向の中心線上である基部21cの端面中央に支持線26を取着することによりこの支持線26を介して外部に漏洩する振動エネルギーの損失を少なくでき微小な振動エネルギーを効率よく電気信号として外部へ取り出すことができる。」(本件公報二頁四欄四一行ないし三頁五欄三行)(3)「二組に共通接続した電極を音叉の振動の節である表裏板面の基部の中央部から外部へ導出しているので、たとえばリード線の共振による特性の劣化等の影響を確実に除去でき、しかも対称的な配置構造によつて理想的な振動姿態を得られる。さらにこの部位を強固に保持しても振動特性を劣化する虞もないのでたとえばリード線を保持線に兼用することもできる。しかしてこのような場合基部の中央部で振動子を保持することと相俟つて充分な耐震・耐衝撃性を得られる。」(本件公報三頁六欄二〇行ないし二九行)との記載があることが認められる。右認定の記載内容に基づき、振動の節と基部中央部との関係についてみると、右(1)の記載は、基部の中央部は振動の節に近い部分である、換言すれば、基部の中央部と振動の節の位置とは、近いけれども一致しないとしているのに対し、右(2)の記載は、振動の節は、「基部21c」というのか、その「巾方向の中心線上」というのか、あるいは「基部21cの端面中央」というのか、その記載だけからは明確ではなく、更に、右(3)の記載は、基部の中央部が振動の節であると述べているものと一応解することもできるが、このように解すると、右(1)の記載内容と矛盾するものである。

(二) そこで、本件発明の特許出願の経過についてみるに、原本の存在及び成立に争いのない乙第九号証の一によれば、本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の項には、「基部11cが脚部11a、11bの振動の節になることを利用してこれの中央部に小孔12を形成し、この孔12部を支持線13で支持することにより外部振動および衝撃に充分耐え得るような構成とする。」(乙第九号証の一の三頁一二行ないし一六行)、「前記音叉形水晶振動子はその振動節にあたる基部をリード線より独立した支持線で強固に支持するようにしたので外部振動および衝撃に充分耐える構成とすることができる。」(同号証の五頁下から七行ないし四行)と記載されていたことが認められ、右認定の事実によれば、本件発明の出願人である原告は、当初は、脚部の振動の節は基部全体であるとしていたことが明らかである。次に、成立に争いのない甲第三号証並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第二二号証ないし第二四号証によれば、本件発明の出願人である原告は、昭和五四年三月七日、本件発明は、特願昭46―76278号の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるから、特許を受けることができない旨の拒絶理由通知を受け、これに対して、同五四年五月二一日付手続補正書において、特許請求の範囲を前二認定のとおり補正して、本件発明の構成要件Cに該当する部分を新たに追加し、これに伴い、発明の詳細な説明の項の記載を全面的に補正した際に、前(一)(2)及び(3)の記載を追加し、また、右(一)(2)の記載に続いて、「さらにリード線23、24を振動の節である基部21cの特に巾方向の中央部に接続して外部へ導出するようにしているので構成が単純でしかもこのリード線23、24を接続したことによる振動特性に対する悪影響を除去することができる。またこの場合振動子は板面の表裏、左右に関して対称的な構造となり理想的な振動姿態を得ることができる。さらに、リード線23、24の接続位置が基部11cの中央のために位置決めを容易に行なえ自動組立機等の導入を容易に図ることができる。」との記載(乙第二四号証八頁一一行ないし九頁一行)を追加したこと、及び、同日付意見書において、「本願発明は振動子片に設けた電極を外部へ導出する端子数を減少して2端子としその構造を簡単にするとともにその位置を音叉の基部の中央部とし、振動特性上、最も好ましい端子の導出位置とした音叉形振動子を提供することを目的の1つとしたものである」ところ(乙第二三号証四頁九行ないし一四行)、右引用例には、共通接続した二組の電極を基部の裏表板面の中央部から外部に導出するとの構成は示されていないのであるから、本件発明は、引用例記載の発明とは全く異なる発明である旨主張していることが認められ、更に、原本の存在及び成立に争いのない乙第二七、第二八号証、第三〇号証、第三二号証によれば、本件発明の特許出願人である原告は、昭和五六年七月一七日、「一般に音叉形振動子の節の位置は、音叉形水晶振動子の基部中央から少し離れた二点に生ずるものと認められるが、昭和54年5月21日付け手続補正書によつて補正された特許請求の範囲に記載されている本願発明の音叉形振動子の節の位置は基部の端面中央部に生ずるものと認められる。しかるに、なぜ本願発明の音叉形振動子の節の位置が基部の端面中央部に生ずるのか明らかでない。したがつて、本願の発明は、リード線を音叉形振動子の基部の端面中央部に接続することによつて、振動特性に対する悪影響を除去することができ、またこの場合振動子は板面の表裏、左右に関して対称的な構造となり、理想的な振動姿態を得ることができるという所期の目的を達成することができないものと認められる。以上のとおりであるから、本願の発明は特許法第二九条一項柱書の発明と認めることができない。」との拒絶理由通知を受け、これに対して、「音叉形水晶振動子の横巾が狭いのでリード線を引出す場所は表裏4箇所とすることは不可能あるいは極めて困難と考えられるので本願ではその裏表から1本宛リード線を引出す構成とし水晶振動子の端子の構造を簡単にし、かつ製造を容易にしている。さらにこのようなものにおいて、水晶振動子のほぼ中央から端子を引出せばその振動の節に近い部分に端子を設けることができ、この端子の存在が水晶振動子の振動に殆んど影響を与えないようにできる。また、このようにすれば水晶振動子の中央部を保持する場合、水晶振動子の端部に端子を設けるものに比して構造も合理的で製造も容易になる。」との同年九月二一日付意見書を提出したが、同日付手続補正書において、特にその旨の補正をしなかつたため、特許法三六条四項に規定する要件を満たしていないことを理由とする同年一二月七日付拒絶理由通知書により、右手続補正書に、右の意見書中の「水晶振動子のほぼ中央から端子を引出せばその振動の節に近い部分に端子を設けることができ………合理的で製造も容易になる。」との記載と同一の文章を挿入されたいとの指摘を受け、同五七年一月一四日付手続補正書により、本件明細書の右(一)(1)の記載の一部として右と同一の文章を挿入したものであることが認められる。更に、原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証によれば、本件発明の特許出願に対する特許異議の申立てにおいて、異議申立人が乙第五号証の四の文献を甲第3号証として提出したところ、特許庁審判官は、「甲第3号証刊行物に記載されているものは、基部を二つの部分に分けるためにエ字形をしている。そして、殆んど振動をしない下の基部の適当な箇所にリード線を設けている。それゆえ、甲第3号証刊行物には、本願発明の主要な構成要件である「共通接続した2組の電極を基部中央部の裏表面板から外部に導出した」点については何も記載されておらず、示唆もされていない。一方、本願発明の水晶振動子の基部は、棒状であるので、その2箇所だけに振動しない節点を有する。そして、従来は、その節点にリード線を取付けていたのを、本願は、音叉形水晶振動子が小型であるために、節点と節点との間隔が小さくなり、節点と節点の中間である基部中央部にリード線を設けても、音叉形水晶振動子の振動に殆んど影響を与えないということを発見したのである。そして、水晶振動子の中央部にリード線を設けることにより、構造も合理的で製造も容易になるという、特有の作用効果をもつものと認められる。」と述べて異議申立てを却下する決定をしたことが認められる。右に認定した本件発明の出願の経過、特に、本件発明の特許出願人である原告は、本件明細書の発明の詳細な説明の項に右(一)(2)及び(3)の記載を挿入した後、「一般に音叉形振動子の節の位置は、音叉形振動子の基部中央から少し離れた二点に生ずるものと認められるが」との意見が記載された拒絶理由通知を受け、手続補正により、明細書に前(一)(1)の「水晶振動子のほぼ中央から端子を引出せばその振動の節に近い部分に端子を設けることができ、この端子の存在が水晶振動子の振動に殆んど影響を与えないようにできる。また、このようにすれば水晶振動子の中央部を保持する場合、水晶振動子の端部に端子を設けるものに比して構造も合理的で製造も容易になる。」との文章を挿入した経緯、及び、右の「本願は、音叉形水晶振動子が小型であるために、節点と節点との間隔が小さくなり、節点と節点の中間である基部中央部にリード線を設けても、音叉形水晶振動子の振動に殆んど影響を与えないということを発見したのである」との特許異議の申立てを却下する決定があつたことに照らせば、特許出願人ないしは当業者は、少なくとも本件発明の特許出願時から特許異議の申立てを却下する決定に至るまで、音叉形水晶振動子における振動の節は、従来から音叉形水晶振動子において四本のリード線が導出されていた位置、すなわち、基部の幅方向の中心線上であつて音叉溝の切込谷底からやや下方に位置したところの近傍の左右対称の位置で、かつ、各脚部の下方に二箇所存在するものと認識していたこと、ひいては、本件発明の構成要件Cにおける基部中央部とは、その二箇所の節の中間、すなわち、二個の節に近い位置で、基部の裏表板面の文字どおり中央の部分であり、少なくとも右二箇所の節から遠くなる基部の幅方向の両端部はもとより、基部の上下方向の両端部も含まないものであると認めるのが相当である。原告は、請求の原因5(二)において、本件明細書の発明の詳細な説明の項の前(一)(3)の記載は、振動の節が基部の中央部であることを示唆し、前(一)(2)の記載は、振動の節が基部21cの幅方向の中心線上を少なくとも含み、特定の点ではないことを示唆し、更に、「中央部」との文言は、その文言自体、ある一定の領域を意味するものであつて、ある限定された中心点を意味するものではないから、本件発明の構成要件Cの基部中央部は、音叉型水晶振動子の基部の幅方向の中心線を基準にした上下にわたる帯状の領域であつて幅方向の両端部を除いたものと解すべきである旨主張するが、前述した本件発明の特許出願の経過、特に、本件明細書の発明の詳細な説明の項に前(一)(2)及び(3)の記載を挿入した後、更に、手続補正により、明細書に前(一)(1)の「水晶振動子のほぼ中央から端子を引出せばその振動の節に近い部分に端子を設けることができ………合理的で製造も容易になる。」との文章を挿入した経緯、及び、右の特許異議の申立てを却下する決定によれば、時間的に後にされた右(一)(1)の補正又は特許異議の申立てを却下する決定の記載内容の方が、登録査定されるに至つた本件発明についての特許出願人ないしは当業者の認識として重視されるべきであるから、右(一)(2)及び(3)の記載があるからといつて、原告主張のような解釈をすることはできないものといわざるをえない。特に、原告の右主張は、右(一)(2)の記載が、振動の節が基部21cの幅方向の中心線上を含むとの意味であることを前提としているのであるが、前認定のとおり、本件発明の特許出願人ないしは当業者は、少なくとも本件発明の特許出願時から特許異議の申立てを却下する決定に至るまで、音叉形水晶振動子における振動の節は、従来から音叉形水晶振動子において四本のリード線が導出されていた位置、すなわち、基部の幅方向の中心線上であつて音叉溝の切込谷底からやや下方に位置したところの近傍の左右対称の位置で、かつ、各脚部の下方に二箇所存在するものと認識していたこと、及び、前認定のとおり、本件発明の特許出願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の項には、基部全体が脚部の振動の節になるとの記載があつたことからすれば、前(一)(2)の「振動の節になる基部21cの特に巾方向の中心線上である」との記載は、単に基部全体が振動の節であるとの従前の記載がそのまま残存したものであつて、「振動の節になる」との文言は、「基部」を形容しているものにすぎず、基部21c幅方向の中心線上を含む部分が振動の節である旨述べているものではないと認めるのが相当であり、したがつて、原告の右主張は、採用するに由ないものといわざるをえない。また、本件発明の構成要件Cの基部中央部に関する前説示によれば、前(一)(3)の「振動の節である表裏板面の基部の中央部」との記載も、むしろ、正確には振動の節に近い表裏板面の基部の中央部との趣旨であると解するのが相当である。また、原告は、被告の主張に対する原告の反論2(二)(2)、(3)において、本件発明の特許出願に対する昭和五四年三月七日付拒絶理由通知書において引用された特願昭46―76278号の明細書に記載されている先願発明における電極の導出位置が、基部の両端部(脚部の下方延長部分)にあつたので、それとの差異を明確にするために、昭和五四年五月二一日付手続補正書によつて、本件明細書の特許請求の範囲に、「電極を基部中央部の裏表板面から外部に導出」するとの構成を追加し、このときに、本件明細書の発明の詳細な説明の項に、前(一)(2)等の記載を追加したものであり、更に、昭和五五年五月一五日付審判理由補充書においても、「本願は「共通接続にした2組の電極を基部中央部の表裏板面から外部へ導出する」点にも特徴を有するのに対して特願昭46―76278号では音叉の基部の両側部から接続線を導出するものであり本願発明とは構成が異なる」と記載しており、右事実によれば、本件発明の構成要件Cの基部中央部とは、音叉形水晶振動子の基部のうち、その両端部(脚部の下方延長部分)を除いた部分を意味する旨主張する。しかしながら、右の手続補正が、たとえ、右の先願発明における電極の導出位置が基部の幅方向の両端部(脚部の下方延長部分)にあり、それとの差異を明確にするために、「電極を基部中央部の裏表板面から外部に導出」するとの構成を追加したものであるとしても、そのことから、右の「基部中央部」が、基部の幅方向の両端部(脚部の下方延長部分)を含まないものであるということはいえても、このことから逆に、「基部中央部」が、基部の上下方向の両端部をも含むものであるということはできない。また、右の手続補正の際に、前(一)(2)及び(3)の記載が本件明細書の発明の詳細な説明の項に追加されたことは、前認定のとおりであるが、右(一)(2)及び(3)の記載から本件発明の構成要件Cの基部中央部を原告主張のように解することができないことは、本件発明の特許出願の経過及び前(一)(2)及び(3)の記載の解釈に関する前説示に照らして明らかである。したがつて、原告の右主張も、採用の限りでない。更に、原告は、被告の主張に対する原告の反論2(二)(4)、(5)において、前(一)(1)の「水晶振動子のほぼ中央から端子を引出せば………合理的で製造も容易になる。」との記載を本件明細書の発明の詳細な説明の項に挿入するに至つた経緯及び特許異議の申立てを却下した決定内容についてるる主張するところであるが、原告の右主張は、本件発明の構成要件Cの基部中央部についての前認定判断を左右するものではなく、したがつて、採用することができない。なお、原告は、請求の原因5(二)において、球状シリカゲル粉末を音叉形水晶振動子の表面に振り掛けて、交流駆動により振動させ、いわゆるクラドニ図形を得る実験を行つたところ、被告製品のような音叉形水晶振動子の振動の節は、基部の幅方向の中心線を基準にした上下にわたる帯状の領域であつて幅方向の両端部を除いた部分にあることが確認された旨主張し、これに対して、被告は、有限要素法による振動解析及び機械探針法による実験に基づく反論ないしは反証を行つているが、本件発明の構成要件Cの基部中央部を解釈するに当たつて、本件明細書の記載及び本件発明の特許出願の経過を参酌した結果、本件発明の特許出願人ないしは当業者において、本件発明の特許出願時から特許異議の申立てを却下する決定に至るまで、音叉形水晶振動子において二個の振動の節が存在するものと認識していた位置の中間、すなわち、二個の節に近い位置で、基部の裏表板面の文字どおり中央の部分が、本件発明の構成要件Cの基部中央部であり、少なくとも基部の幅方向の両端部及び上下方向の両端部はこれに含まれないものと解すべきであることは、前認定のとおりであつて、本件発明の構成要件Cの基部中央部を認定するに当たつては、本件発明の特許出願人ないしは当業者において認識していた右の音叉形水晶振動子の二個の節の位置を基準とすべきものであるから、右の実験等によつて音叉形水晶振動子の振動の節が真実存在する位置について殊更探究する必要はないものというべきである。したがつて、原告の右実験は、その技術内容について言及するまでもなく、本件発明の構成要件Cの基部中央部に関する前認定判断を左右しないものといわざるをえない。

以上によれば、本件発明の構成要件Cの基部中央部は、文字どおり、基部の裏表板面の中央の部分であり、その幅方向の両端部及び上下方向の両端部は、いずれも振動の節が存在すると考えられていた位置から遠いのであるから、基部中央部に含まれるものと解することはできない。

これに対して、被告製品は、前述のとおり、各共通接続した二組の励振用電極を基部10の裏表板面の底部であつて基部10の幅方向の中央において突出部5、6を介して外部リード線3、4に接続し、外部に導出して屈曲振動を励振するようにしている構造であるから、本件発明の構成要件Cの構成を具備しないものであることが明らかである。したがつて、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属するものということはできない。

五 よつて、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとする。

〔編注1〕本件発明の構成要件は左のとおりである。

A 対峙した一対の脚部及びこれらの脚部の各一端を連結する基部とからなり、かつ、各脚部の周面にそれぞれ電極を形成した音叉形の水晶振動子であること。

B 一方の脚部の裏表板面電極と他方の脚部の両側面電極とを共通接続し、他方の脚部の裏表板面電極と一方の脚部の両側面電極とを共通接続するように電極分割していること。

C 各共通接続にした二組の電極を基部中央部の裏表板面から外部に導出して屈曲振動を励振するようにしていること。

D 右AないしCの組合せからなることを特徴とする音叉形水晶振動子であること。

〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。

一 図面の簡単な説明

第一図は被告製品の外観斜視図、第二図は被告製品の容器1を外した状態を示す表側斜視図、第三図は第二図の裏側斜視図、第四図は被告製品の電極の接続を示す回路図、第五図は被告製品の各部寸法が記入された正面図である。

二 構造

一端面が開口したカツプ形金属製の容器1の円形開口部を、円板形のベース2で封止して容器1の内部を外界と遮断するとともに、容器1内を約10-4mmHg程度の真空状態に保持している。ベース2は容器1と嵌合する金属製円筒体とその円筒内を埋めるガラス部分よりなつている。

このベース2のガラス部分の内外両面を、容器1の軸方向と平行に二本の外部リード線3、4が貫通し、ベース2の内側に短い突出部5、6を形成している。なお、DT―38型とDT―26型については、二本のリード線3、4のピツチ(中心間距離)を所定寸法に保ち、かつ、突出部5、6と音叉形水晶片7の基部10の間に過度の間隙を生じさせないために、突出部5、6の先端にネールヘツド(クギの頭)が形成されている。

そして、音叉形水晶片7は、基部の下端部が突出部5、6の間に挿入され、その底部がベース2の内面に当接し、かつ、音叉形水晶片7の軸方向と外部リード線3、4の軸方向が平行になつた状態で、音叉形水晶片7の表面の電極と外部リード線の突出部5、6が半田付け(11、12)されている。

その結果、外部リード線3、4は、音叉形水晶片7の電極を外部回路と電気的に接続する本来の機能のほかに、音叉形水晶片7を直接、剛体的に支持する支持機能を兼ね備えた構造になつている。

音叉形水晶片7は、長方形断面の基部10と、左右に分岐した方形断面の二本のフオーク8、9よりなる音叉形である。この基部10の長さbは、音叉形水晶片の全幅wよりも長い。フオーク8、9の各四つの側面には励振用電極8a、8b、8c、8d、9a、9b、9c、9dが形成され、基部10の四つの側面には前記の励振用電極を相互に接続しながら底部の外部リード線接続個所へ導く接続用電極が形成されている。この接続関係は、第四図に示すように、一方のフオーク8の表裏両面の励振用電極8a、8bと他方のフオーク9の左右両面の励振用電極9c、9dとが共通接続され、他方のフオーク9の表裏両面の励振用電極9a、9bと一方のフオーク8の左右両面の励振用電極8c、8dとが共通接続され、各共通接続された二組の電極が音叉形水晶片7の基部下端の表裏両面に導かれている。

三 寸法

第五図の正面図に記入されたローマ字に対応する被告製品の各機種別の寸法を次表に示す。

第五図において、Lは容器の長さ、Dは容器の外径、lは音叉形水晶片の長さ、Wは音叉形水晶片の全幅、aはフオーク部の長さ、bは基部の長さ、cはフオーク部の幅、dは外部リード線の外径、eは半田付け面の横寸法(平均値)、fは半田付け面の縦寸法(平均値)である。

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(以下省略)

〔編注3〕本件発明の図面は左のとおりである。

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